告白

「笑い事じゃないわよ!これでも結構ショックだったんだからね!」

昼間の出来事を修に話したら、お腹を抱えて笑われてしまった。いつものことだが、修はちょっとのことでも思いっきり笑う癖がある。普段はいいんだけれど、虫の居所が悪い時に、これほど気に障るものはないかもしれない。でも今日は大丈夫。なんせ久しぶりのデートなのである。

「なんだか久振りね、こうして週末に2人でゆっくり会うの」

「そうだな、2、3週間振りぐらいか?ここ最近妙に忙しかったからな。何食べよっか?」

「うん...私ラーメン食べたいな」

「ラーメン?おいおい、久振りに会ってラーメンか?」

「いいじゃない?食べたいんだもん。それとも修、何か特に食べたい物でもあるの?」

「別にそんな訳じゃないけどさ。もっといいもん食おうぜ」

こういう事を言われると、私はどうしてもラーメンが食べたくなってきた。私は上目遣いで、ちょっと修のことを見つめた。

「修?私のこと好き?」

「なんだよ突然?」

「いいじゃない、どうなのよ?」

「そりゃ、好きじゃなきゃ付き合ってないよ」

「じゃあ、横浜までドライブしようよ」

「横浜?...あっ、おまえラーメン博物館に行きたいんだろ?」

「当ったり!!早く、早く!」

私はキャアキャア言いながら、修の手を引っ張って車の方まで走り出した。

車のボンネットに高速道路の街灯の明かりが、前から後ろに写っては消え、写っては消えたりしながら流れていた。私はしばらくサイドシートに深く身を沈めて外を眺めていた。落ち着いた音楽が急に止まり、ギターの音が静かに流れてきた。

「あーこれ懐かしいね。”イーグルスじゃない?”」

スピーカーからは”ホテル・カリフォルニア”が流れていた。

しばらく懐かしさもあり黙って聞いていた。今までは何となくBGMみたいな感じで流していたけれど、黙って聞いていると歌詞が何となく耳に入ってきた。余りよく理解できなかったけれど、私はこの曲がなにげに好きだった。

「ねえ、修。この曲なんて言っているか分かる?」

「俺に分かるわけないだろ?美樹の方が英語得意じゃん」

「私もよく分からない..。英語上手くなるとこういうのもよく分かるようになるのかな?」

私の頭には、昨日八城弘子にあって色々と話をしてから、”英語”という2文字が離れなくなってしまった。

「ねえ...」

言いかけて止めてしまった。なんて言っていいか分からなかったからだ。

「何だよ、途中で止めるなよ」

「あのさ...私、英語の勉強してみようかな?と思ってるんだ」

どのように説明していいのかわからず、思わずそう言ってしまった。

「英語?いいんじゃない。でもまた学校長続きしないんじゃないのか?」

「ううん、英会話じゃないの」

「えっ、違うの? 何だよそれじゃ?」

私はちょっと外を向いて自分の混乱した頭の中を整理してみた。

「私ね、八城さんと話してみて、やっぱり出来るならホテルで仕事してみたいなって気になったの。前からそう思っていたし、今度の仕事は自分の好きな、しかもキャリアとして自分が認められるような事をしたいの。でも言われた通り、ホテルでの経験どころか泊まった事すらあまりないし、英語も満足に出来ないじゃない。そんなんで転職なんか出来ないと思うの。新卒ならともかく、”何も出来ません”じゃ、ホテルはおろか、どこも取ってくれないよ。」

修は黙ったままだった。

「わたしね、ここ何日かで自分の価値みたいなものが何となく分かってきたような気がするの。あっ勿論社会的なものよ」

「えっ、どういう意味?」

「”自分ってダメなんだ”って言うような、悲観的な意味で言ってるんじゃなくて、会社の中で、どれくらい自分が必要とされてるかとか、変な言葉だけど、どのくらい”商品価値”があるか?って事」

「ふーん。そう言う風に考えることないんじゃないかな?」

「たぶん修には分からないと思うわ。あなたは会社で自分の居場所や価値ってゆうものがあるから、それに気づかないのよ。今私がやっている仕事って、結局誰でも出来る訳じゃない。私がいなくてもいくらでも代わりがいるの。そういうんじゃなくて、”私が欲しい、私じゃないと出来ない”って言われるぐらいぐらいになりたいの」

「そうかな?まあ、それと英語と、どう関係があるんだよ」

「だから、英語をしっかり勉強してホテルで働けるようにするんじゃない」

気が付くと、いつの間にか私達は高速を降りて、ラーメン博物館のすぐそばまで来ていた。

「あーもう着いた。結構空いてたね」

私は急にお腹が空いてきた。2人は車を止めると小走りに中へと急いだ。と言っても私がせかしたのだが...。どこで食べるかとちょっと意見が分かれたけれど、結局札幌ラーメンを食べることにした。暫くすると、熱々のコーンバター味噌ラーメンが2つ運ばれてきた。

「うわー、おいしそう!頂きまーす」

ちょっとバターのこってりした重さがこたえられなくおいしかった。修も”旨い、旨い”と言っておいしそうに食べている。

「ねえ、美樹」

修が思いだしたように聞いてきた。

「さっきの話だけど、英語を勉強してホテルで働くのは分かったけど、実際どうやってするんだよ?」

「”どうやって”って、英語の勉強?」

修はラーメンを頬張りながら頷いた。

「色々考えたんだけど...留学しようかなって思ってるんだ」

一瞬修の動きが止まった。

「留学?」

まじまじと私の顔を見ながら、驚いたように聞き直してきた。

「うん、変かな?」

「いや、変とかそんなんじゃないけど、急だったからビックリしたよ」

「どう思う、修?」

「どうって、わかんないよ、そんなの急に言われても」