自分って..?

ファッション雑誌でも買おうと思い、駅前の本屋さんに入った。2冊ほど選んでレジに行こうと思ったとき、一冊の就職情報誌が目に付いた。

”女性のための転職テクニック”見るからにキャリア・ウーマンって感じの女性が笑顔でポーズを取っていた。私はあまり深い意味はなかったけれど、先日の中島舞との夕食での会話がちょっと気になっていたので、買ってみることにした。

「一流企業だから転職先もいっぱいあるでしょう?」

「何でもいいから資格とか持っておいた方がいいよ」

「責任のある仕事はみんな男の人に持って行かれて...」

など、なんとなく心に引っかかる物がここ2、3日続いていた。

家に帰ってから、冷えたビールを缶のままから飲みながら、早速就職情報誌に目を通してみた。

数ページパラパラとめくっていると、転職特集みたいな物が組まれていた。

「ふーん、世の中転職ブームなのかなー?」なんて思いながら読んでいると、その中にあるオーディオ機械系のメーカー勤務のOLのコメントがあった。

「大学を卒業してから6年間一生懸命に働いたんですが、未だに新入社員と同じ様な仕事内容です。転職しようにも殆どのところは年齢を気にして雇ってくれそうな気配はありません。それも悔しいのですが、6年間働いてもこれと言って何が出来るようになったという、いわゆるセールスポイントが全くないことに気づき、いったい今まで何をしてきたのだろうと悔しいやら情けないやらの気持ちでいっぱいです。何かいい方法はないでしょうか?」

私は一瞬ドキッとした。まさに今の私だった。6年とは行かないにしても、丸2年働いて一体何が出来るようになったのだろう。このまま3、4年働いたとしても何も変わらないだろう。会社は女性社員、特に事務職の女の人を会社の戦力として全く考えていないに違いない。現に私達はたいした仕事もさせてもらえないし、みんなある程度働き、社内恋愛で結婚退社していく人達が殆どだ。私はそんな現状に薄々は感じてはいたものの、中島舞との夕食、そしてこのOLのコメントで、はっきりと”このままでは...”という危機感を感じ始めた。

この他に私の中でくすぶっていたものを起こす大きなきっかけとなったコメントがあった。

「これを見ているほとんどの読者は、何らかの理由で転職を考えている方達だと思いますが、もう一度、どうして転職したいのか良く考えて下さい。人にはそれぞれ色々な生き方があると思います。仕事が生き甲斐だったり、仕事に充実感を見い出せない人でも、結婚することによって何倍もの幸せを見つけることが出来る事もあります。でも、”仕事が面白くないから結婚”という簡単な理由で仕事を辞めないで!男の人に混じって一生懸命仕事を頑張っている人達はたくさんいます。簡単に仕事を投げ出して、会社を辞めていく女性がまだまだたくさんいる為、女性の社会的評価が下がり、頑張って働いている女性達にいい仕事がまわってくるチャンスが減ってしまいます。女性の社会進出は今の世の中には絶対不可欠な事。仕事に不満があるのなら文句を言ったり、辞める前に自分で変える努力をしてみては? 待っているだけでは何も変わりません、自分の人生は自分で変えよう!!」

これは転職特集を組んだ一人の女性編集者のコメントだった。私の職場ではまさにこのような同僚がたくさんいて、いつも何処の誰々がいいだの、コンパしてどうだったというような話ばかりしている。私も最初のうちは社会人生活が物珍しく、そのような話で盛り上がったこともあった。でも最近は毎日同じ様な話題、同じ内容の仕事を繰り返して”このままでいいのだろうか....。”と感じていた。周りの友達や学生時代の友達などは、ここ2、3年で結婚しだし、よく式の招待状が送られてくる。両親や友達からも時々”結婚しないのか?”、と聞かれることがあるけれど、なぜか素直に結婚したいと思えなかった。それでも今の仕事はやり甲斐があるとは思えなかったし、このまま続けても何が変わるという期待も持てなかったので、時期が来たら結婚退職するのだろうな、となんとなく思っていた。しかし、この女性編集者の一言で何か吹っ切れたような気がした。

「”辞める前に自分で変える努力を”、 ” 自分の人生は自分で変えよう!” か」

思い立ったらじっとしていられない性格の私は、次の日には早速就職情報誌を数冊買ってきて、むさぼるように読みあさった。しかし、私はそれらを読むにつれて、覚悟はしていたものの”女の転職”という事がどれほど残酷で、大変な事なのかがだんだんと現実味を帯びて目の前に立ちはだかってきた。ほとんどの会社は転職の条件として、様々な実務経験が必要とされており、ただひたすらタイプなどの雑務をしていた私には、どう逆立ちして頑張っても入れそうもなかった。しかも驚いたことに、女性社員に限り年齢制限をしている会社などもあった。私はまだ24歳なのでそれには該当していなかったけれど、どうせそんな会社に入ってもろくな仕事はさせて貰えないのは火を見るよりも明らかだった。結局5冊も見て、契約社員や派遣会社以外で応募できる会社はほとんどなかった。

”資格か何か何でもいいから自分をアピールできるものがないと、イザって時に大変だよ私みたいに。”中島舞の言葉がまた思い浮かんできた。

「自分をアピールできる物...」

私は力無くつぶやいた。