「わぁ、結構おしゃれじゃない」
私も入るのは初めてだったけど、天井が高く、不思議な模様の絵が描かれており、木材や観葉植物などを使ったオブジェが多い。少し暗いくらいの照明のお陰で、余計に不思議さが引き立っていた。テーブルの飾りにもアイデアが生かされてあって、バナナの皮らしき物で作った香辛料入れがあり、そこからほのかな自然のいい香りが感じられた。
「本当ね、木の素材が多くて何か落ち着くわね」
キョロキョロと店内を見渡していると、背の高いちょっとかっこいいウエイターがやってきて私達を案内してくれた。ちょっと夕食には早い時間にも関わらず殆ど席はいっぱいだったが、運良く残り少ない空席に私達は座ることが出来た。
「何見とれているの?」
私は雪枝がテーブルから離れていく彼を目で追っているところを見逃さなかった。
「えっ、何でもないわよ」
と言ったけれども長年付き会っている私には彼女の好みがどんな物か結構わかっているつもりだ。
「彼、結構雪枝のタイプじゃないの?」
「そ、そんなことないわよ。そんなことより早くオーダーしようよ。私お腹ペコペコ」
明らかに照れている彼女を見て私はちょっと笑ってしまったけれど、お腹をすかしているのは私も同様で、あえて深く追求する気になれない食いしん坊の私だった。 雪枝に注文をさせてやろうと、適当に私の食べたい物を伝えて、私は結構込みだした店内に目を泳がせていた。
ふと私の目が不意に一人のウエイトレスに止まった。どこかで見たことがある顔だが思い出せない。雪枝が恥ずかしそうに、でも嬉しそうにオーダーしているのを尻目に、そのウエイトレスを凝視してどうにかして思い出そうと努力してみたけれど、仕事で使い果たした私の脳は反応してくれなかった。
「雪枝、あそこのウエイトレスに見覚えない?」
「えっ、どこ? ...あれ、えっと...あっ!ひょっとして舞ちゃんじゃない?ほら高校の時の同級生で、陸上部にいた子」
「エー、舞ちゃんってあの中島舞ちゃん? たしか彼女、広告代理店で働いてるって前の同窓会で聞いたと思うけどな、こんなところで何してるんだろ?? 何か訳ありね」
また私の好奇心が頭を上げてきた。
「もう美樹ったらすぐそういう事に興味を持つんだから。あっ、さっきのウェイターもう何か持ってきているわよ」
一通り料理が出てきて、とてもお腹を空かしていた2人は黙々と食べ、ある程度落ち着くまであまり会話らしい会話がなかった。しばらくすると、食欲を満たした私の中で先ほどの好奇心が弾けるように頭を出してきた。私はキョロキョロと周りを見渡し、中島舞らしきウエイトレスを探した。
「何キョロキョロしているの?」
「さっきのウエイトレスを探しているのよ」
「美樹、また変なこと考えているんでしょ?」
「ちょっと話したいだけよ、懐かしいじゃない」
勿論それだけではなかったのは言うまでもない。私は彼女が近くに来るのを見計らって、さっと両手を振って合図した。
「ちょっとやめなさいよ。違ったらどうするの、こっちまで恥ずかしいじゃない」
「誰も気にしないって」
暫くすると彼女がこっちに気が付いて私と目があった。私はこっちに来るように合図した。
「はい」と彼女は不思議そうな声で私達に話かけてきた。
「失礼ですけど、中島舞さんでいらっしゃいますか?」
私はドキドキ、ワクワクしながら彼女に聞いた。
「はい、そうですけれども...申し訳ありません、どちら...あれっ?もしかして美樹ちゃん?」
「あたり! 私のこと忘れてたね! ねぇ、雪枝のことも忘れたの?」
「わぁー久振り!どうしたの二人とも?」
「美樹がおいしいお店があるって言うから、じゃぁ久振りに一緒に食事でも行こうかってここに来る事にしたの」
「へーそうなんだ。相変わらず仲がいいのね」
私達はお互いを見合ってクスッと笑った。
「それより中島さん、ここで夜アルバイトしているの?」と雪枝が聞いた。
ちょっと中島舞はバツが悪そうに下を見て笑いながら話し出した。
「最近まで広告代理店にいたんだけど、仕事が時間が不規則で大変な割に給料が安くて、まあそれはまだいいんだけれど、責任のある仕事は全部男の人に持って行かれてね、なんだか馬鹿らしくなって辞めちゃったの。ごめんなさい、久振りに会ったのにこんな事言って。だから今は、再就職するまでの間のつなぎでここで働いているって訳なの。でも実は今年の秋に私結婚が決まっちゃってて、たぶん就職はお預けかな?」
「えーっ、結婚するの?」私達二人はハモル様に大声を出してしまった。」
「シー。まだみんな知らないんだから。昔広告代理店で働いていた時に知り合った人で、建築会社で働いているの」
「わぁー、おめでとう!羨ましいな。いいよねみんな」と2人で言った。
「ありがとう。あっ、ごめんなさい、私仕事に戻らなくっちゃ。あとで時間が開いたらまた来るね。連絡先教えてよ」
と言って彼女はキッチンらしき所へ消えていった。
「彼女結婚するんだ」
雪枝がちょっと意外そうにボソッと言った。
「何よ、雪枝。舞ちゃんに結婚して欲しくないような言い方じゃない」
「いや、そんなんじゃなくて、最近みんな結婚し始めていると思わない?」
「そりゃ、私たちもう24歳じゃない、結婚したっておかしくない年齢よ?」
「でも、人生70年あるとして、今結婚したら45年も一緒に暮らすんだよ、そんなに急がなくてもいいと思わない?」
「そりゃそうだけど、好きな人と一緒にいてお互いに盛り上がっているカップルには、40年も50年もないんじゃないの?早めに結婚したもの勝ちって感じもあるしね」
「美樹はどうなの?修君とは結婚しないの?」
「私?やめてよ!私たちは結婚の”ケ”の字も会話に出てきたことがないわよ。だいたい週に1回会うか会わないかなのに結婚の話なんか出来ないわよ」
「ほんとに?良かった。美樹まで結婚とか言い出したら、私ひとりぼっちになっちゃうもんね」
雪枝がこのようなことを言ったのが私にはちょっと意外だった。
「大丈夫よ、雪枝ならすぐいい人見つかるって。そうしたら私なんかより早く結婚しちゃうんじゃないの? それに、私たちの腐れ縁がそう簡単に切れるとは思えないけどね」
「あぁ、やだやだ!」雪枝が意地悪っぽく言った。
「わー、やだとは何よ。ひどーい」
それからしばらく昔の友達の誰それが結婚しただの、誰それが子供を産んだだのと結婚話で盛り上がった。結局中島舞は忙しかったらしく、私たちの所へは戻ってこなかったので、会計を済ませた時に私たちの連絡先を書いてレジの人に渡して帰った。