遅刻

薄暗い闇の中で何かに追われている気がした。でもなぜだかとっても心地よかった。思い切って目を開け、目を凝らして見てみると、だんだんと意識がはっきりしてきた。目の前には目覚まし時計が横たわっていた。

「うわぁ、どうしよう!」

あと1時間で会社が始まる時間だ。どたばた起き上がり、顔を洗い、着替えてから、簡単なメイクをすると(どんなに急いでいても必ずメイクをして行くところが女の偉いところである。)、女とは思えぬ姿で駅まで走っていった。途中で知り合いとすれ違ったような気もするけど、気にしない気にしない。

息を整える為に大きく息を吐いてから、ドアを開けデスクに向かおうとすると、上司と目があってしまい睨まれた。時計を見るとどうやら3分ほど遅刻したようだ。

「そんな3分ぐらいの遅刻なんか気にしているから出世しないんでしょ!」 なんて言えたら気分がいいだろうなと思いながらも、申し訳なさそうな笑顔をとりあえず返しておいた。そのことを昼休みに雪枝に話したら、

「美樹、また昨日夜遊びしてたんでしょ」

とつっこみを入れてきた。

「違うってばー。最近悩み事が多くてさ、なかなか眠れなかったのよ」

「ホントは1人じゃなかったから眠れなかったんじゃないの?」

と言われ、一瞬ドキッとしたけれど、平然を装って、

「それよりさー、最近面白い事ないの? 毎日平凡な日々を過ごしているから刺激が欲しくって」

と話題を変えようと試みた。でも刺激が欲しいというのはホントのことなのだ。

「何言ってるのよ、修君とはうまく言っているんでしょ?」

私の作戦は軽くかわされてしまい、もっと突っ込まれてしまった。

「まあね、でも最近彼の仕事が忙しくって、あまり会ってないんだよ。いつも忙しい、忙しいって言ってて全然相手にしてくれないの。こんなに可愛い子と付き合っていながら、よく仕事に没頭していられると思わない?」

「でもなんだかんだって週に何回か会っているんでしょ?」

「とんでもない。最近は週に一度もままならないのよ。 彼、隠れて何かやってるんじゃないのかな?」

「変なこと言わないの」

二人はお互いを見て、クスクスっと笑った。

「それよりさ、今晩何してる? 銀座に面白いお店が出来たんだって」

私たちは何かあるとすぐ食べ物の話になってしまうのである。

「へぇー、どんな感じなの?」

「良くは知らないんだけど、色々な国の食べ物が食べられるらしいわよ、これが結構美味しいらしいの」

「面白そうじゃない、最近一緒に食事に出かけてないもんね、久しぶりに行こうかしら」

「じゃあ決まりね。私ちょっと仕事が溜まっているから、急がなくっちゃ」